七つのぽけっと

七つのぽけっと より
「あおいビーだま」 あまんきみこ  作
           佐野洋   画


「こっちだよな。」
たけしくんが 野原で さがしものを している。
「えーと、 この へんだっけ。」
あつい 真夏。背なかには、まだ ランドセルを 背負ったまんま。

「やっぱり ここらかなぁ。 こっちのほうに
ころがったのに。」
 たいせつな 青いビーだま。 だいすきな よしこちゃんに
やっと もらった あの たからもの。

 あんなに しっかり にぎっていたのに、 ころんだとき、
たけしくんの 手のひらから とびだして しまった。

 ちっ。ころんだとき、うった ひざは いたいし、
のどはかわいて からからだし、たけしくんの くちは、
すっかりへのじ。

(そうだ、水を のんでから、もいっかい こよう。)
そう おもいなおして 背をのばしたとき、くさの あいだに、
おや、みょうなものが みえた。
みどりいろの ちっこいもの。

「へぇ、かっぱ。」

たけしくんは ひろいあげた。
ごむで できてる ごむかっぱ。
 そいつときたら、たけしくんの 中ゆびぐらいの
大きさしかない。

「なぁんだ。おまえも げんきの ない かおだな。」

さがり目が、 しょぼん。
なんだか 泣きつかれたみたいな かお。
ふるくって よごれているし、 あたまの 上の しろいさらは
土が ついて、からからの ちゃいろ。

「よしよし」。
すぐ そばを ながれている 小さい 川をみながら
たけしくんは つぶやいた。
「かっぱって、あたまの さらが かわいちゃ、
どうにもなんないんだよな。」

川の ふちに いって、しゃがんで、かっぱを
ながれに つけてやった。
ここの 水、すこし、よごれているけどさ、
まぁ、がまんしなよ」

そう いいながら、かっぱを あらってやった。
すると、手のひらが くすぐったくなったんだ。
あららら。

手のひらを ひろげると、きれいに なった かっぱが、
ぱちぱちっと まばたきを した。
かと、おもったら、むきを かえて とぽん。

川の中に、とびこんで しまったんだ。

「へんだねぇ。たしかに、ごむのかっぱだったのに。」
目を 大きくして 川の そこを のぞいて みたけど、
「なぁんにも みえないや。」

と、その とき、きゅうに 日ざしが、すうっと くらく
かげって、ざぁっと、にわか雨が ふりだした。
 ひゃぁ、 ひどい 雨。 すごい 雨。
たけしくんは、びっくりして、かけだした。

やがて、たけしくん、ぽたぽた しずくを
おとしながら アパートの二かいに あがっていった。
 しずくを おとしながら 二かいの つきあたり、
201号しつの かぎを、 じぶんで あけた。

おかあさんが かいしゃに いって はたらいているから
たけしくんは、いつもそうしている。
 へやに はいると、あしあとを つけながら、
だいどころに いって 水をのんだ。

それから、ランドセルを ほうりだすと、かわいた
タオルを ひっぱりおろして かおを ごしごしふいた。
そのタオルで ついでに、 うでも ふくも、 

あしも ぺタぺタふいた。

 すると、へんに しずかに なった。
そして ざぁざぁ いう おとが、なみでも ひくように、
すうっと きこえなくなった。
「雨が、 やんだんだ。」
ふりむいたとたん、たけしくんは いきを のんだ。

まどの そとに なにか いる。
みどりいろで ちっこいもの。 うごくもの。
・・・そいつが、たけしくんの ほうを むいて、
ちいさな 手を ふっている。

水かきの ついた 手。
(かっぱ! さっきの やつだ! はあん。
まどを あけてくれって いってるんだ。)

たけしくん、あわてて まどを あけてやった。
すると、かっぱったら、ひょいと まどぎわに たって、
ぺこっと おじぎを したのさ。
「さっきは ありがとよ。」

それから てれたみたいに あかくなって、
くふっと わらった。
「いままでの 人、だあれも おれに 水を
かけてくれなかったんだよ。ほんと。
・・・ああ、やっと、うちに かえれるよ。
おっかさんが よろこぶよ。

それから、あのガラスだま・・・、あおくひかっているやつ、
あおぎりの下に ころがっていったよ。
もうすこし、さきだ。

おれ、ちゃんと、この、目でみてたんだから。」と、
いって その かっぱ、ビーズぐらいの目を、
くるっとまわした。
「じゃあな。 それだけ。」

それから、ひょいと むきを かえ、およぎだした。
まるで みどりいろの こがめみたいな かっこうで。

みるみる、みどりの てんに なって むこうに
きえると・・・、あたりがまぶしく あかるくなった。
いっぺんに はれてきたんだ。
「・・・・・。」

たけしくん、目を 三ども こすった。
その とき、すきとおった かぜが ざあっと ふいて、
かえでの みどりが きらきらと ひかって ゆれた。

たけしくんが はしっていく。
「あの かっぱったら あかくなったりして。
うふふ。 ちっこかったなあ」

わらい わらい はしっていく。
え?
どこにいくのかって?

もちろん、さっきの のはらまでさ。
だいすきな よしこちゃんに もらった あの あおい
ビーだまの あるばしょが わかったんだから。

おしまい

「七つのぽけっと」あまんきみき作・佐野洋子画
理論社 ¥1100


 
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by orihime300 | 2018-03-05 18:58 | 絵本 | Comments(0)
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